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第46回Next Retail Labフォーラム速報レポート

 

46回 次世代小売流通研究会 NextRetailLabフォーラム開催

「三越伊勢丹のDX戦略と具体的取り組み」

2022428日(木)

1900-2100

 

青山学院大学 経営学部 マーケティング学科

近藤暖夏

 

今回参加させて頂いたのは、株式会社三越伊勢丹営業本部オンラインストアグループ長をされている北川達也様によるご講演です。

 

<講演内容>

コロナの蔓延により、小売業界の環境は大きく変化してきました。ただその中でも、「本能や本質は変わらない。常識や習慣はきっかけ次第で簡単に変わる。」ということが、2020年から2021年を過ごして分かったことになります。三越伊勢丹が300年を超える歴史の中で提供してきた価値は、人間の本能に訴えるような、本物・本質がその根底にあると思っています。しかし従来の顧客が百貨店に抱いていたイメージは大きく変化しています。ラグジュアリーや化粧品のように売り上げの構成比率を大きく伸ばした領域もあれば、かつての花形領域であったアパレルのように売れ行きが落ちたものも存在します。

 

CES2022/NRF2022の示唆的な学び

消費者の購買理由が「一番お得なところはどこか」という観点から「一番自分に寄り添ってくれるのはどこか」という観点にシフトチェンジしてきました。また各企業がDX戦略に取り組む中で勝者と敗者が生まれるようにもなってきています・

DXの勝者:顧客の期待と自社の強みを掛け合わせ、戦略と実装を織り込んだ企業

DXの敗者:単にDXの定石に乗っ取り、全体的なデジタル化・オンライン戦略を勧めた企業

三越伊勢丹のDX戦略の根底にあるのが、「得意領域である『店舗・人・商品』に圧倒的に“レバレッジ”を利かせられるデジタルサービス/機能を具備し、リアルでもオンラインでも同じようにお客様の期待に応えられる状態にする」ことです。この戦略によって三越伊勢丹は提供価値と手段の再定義を行っていきました。つまり、多様なお買い物体験をリアルとデジタルでシームレスに提供することを第一義に考えるようになったのです。

いくつか興味深いデータを紹介します。

残りは遠隔地や外商顧客

→ローカルで満足頂いているクオリティを遠方の方にも届けていく

→必ず購買を決意して来店している

オンラインでもこのデータから分かる顧客からの期待を意識すべき

→併用によって顧客一人当たりの価値が上がる

またお客様にも複数の変化が起こっています。まず課題として、“モノ売りを起点”とした瞬間最大風速を高めるための顧客戦略の限界が挙げられます。この解決策として、顧客に愛され、顧客として定義化していただけるようにするための顧客戦略の再定義が求められます。これはより多くの人に知ってもらい、そのうえで継続顧客になってもらうためのアプローチとなります。次に従来の顧客化とは異なる逆算的顧客化として、既存のファンコミュニティから如何にして熱狂的なコアファンを増やしていくべきかといったアプローチも必要になってきています。

 

三越伊勢丹の中長期戦略についても説明します。この中で最重要視されているのが、重点戦略になります。重点戦略は全部で3つあり、それぞれに役割が課せられています。

三越伊勢丹グループが持つチャネルを利用した取り組みもいくつか押し出されています。

強みである外商顧客との接点の多さを活かし、顧客の様々なニーズに応えるために社中における情報、リソースを十分に活用できる状態にしてセールスネットワークを強化。専門性をかみ合わせた外商対応へとアップデート。

 

ここで三越伊勢丹の数年のDXにおける流れを一度整理します。大きく分けて2つの流れが存在し、まず一つ目に百貨店事業における取り組みを行った後に、既存百貨店にはないアプローチやンノウハウ、三越伊勢丹の持つ独自性や優位性を活用した選考的な取り組みを行っていきました。

まず百貨店事業における取組をいくつか紹介していきます。

ECサイトでは、「三越のおもてなし」と「伊勢丹の商品提案力」の双方の強みを合算して、顧客が三越伊勢丹で想起する重要な商品をラインナップに加えていきました。アプリではクーポンや店頭予約、人気な催事の入場パスの発行が可能です。

店頭の商品をオンラインで購入できるサービスです。在庫管理の問題等から通常はECに載せにくいような商品を販売可能としています。また店頭のスタイリストがカートを生成することも可能となっており、店頭商品のオンライン決済も可能となっています通常のECとは違うリーチしにくい製品にも対応できる点も強みです。これは1年間でかなり利用数が伸びたサービスとなっています。

例として

・ユアフィット365:3D計測したお客様の足型と靴の木製データのマッチング

・マッチパレット:3D計測器で体のサイズを採寸、その結果を基にお洋服選びのアドバイスを行う

お客様の悩みに寄り添い、お客様自身も気が付いていなかったニーズを新たに発見することで接客の質の向上に繋がっています。

 

次に新しい顧客定見を提供する取り組みについてもいくつか紹介していきます。

コロナ下で需要が増大したため、初めて2年で急成長したサービスです。顧客接点の数が多いことが強みであり(年に数回ではなく毎週宅配)、顧客のニーズをすぐに聞くことの重要性を改めて発見することができました。

強みは日本最大級の品揃えや倉庫に最新のピッキング機能が付与されていることです。店頭からではなく倉庫から商品をピッキングするという発想に変えた結果即日発送が可能になりました。オンライン上の顧客行動の明確化を活かした施策となっています。

ギフト施策は感性軸で攻めていくと難しいといった課題がありました。そこでソーシャルギフトの滑り込み需要が高い(例;バレンタイン、ホワイトデー)ことに目を付け、デジタルでギフトを贈ることの出来るサービスを開始しました。三越伊勢丹が他社に比べてソーシャルギフトの利用率が上回っているのは、個の施策が一つの要因となっています。

オンライン上で顧客の希望に沿ってカウンセリングを行い、自宅にアパレル製品を発送し試着してもらったうえで購入を検討してもらうサービスです。

リユース事業から将来的にはサスティナブル事業の体現へ

仮想空間における新たなサービスとして、新宿伊勢丹の建物を再現しています。まだ開発途上ですが、今後はビジネスとしての利用や協賛企業の増加を目標に更なる発展を目指しています。

 

上記したようなDX戦略を支える組織体制の変化もいくつか行ってきました。

運用面・システム面から即時アクション出来るよう2つの体制を構築

EC運営チームは①すぐやる課として運用課題の解決に、システムチームは②即時改修スクラムとしてシステム課題の解決に連携しながら取り組んでいきました。スムーズに回るように今後も改善を目指していく。

 

最後に三越伊勢丹が直面した、または直面している課題とその対応策について述べていきます。一つ目の課題としては、やった方が良いことは無限にあるためやり始めると収集がつかなくなることです。現場から上がってくる課題は数百を超えることも在ります。この解決策として意思決定層は、やるべきこと/やるべきではないことを現場社員にも伝わるような言葉として置き換え伝えていくことを心掛け、現場の判断基準を明確にする絞り込み戦略を実施しています。二つ目は、サービスやシステムができても目的意識・業務フローが伴わなければ現場が疲弊してしまい、顧客には届かないということです。やった方が良いサービスは勿論大量に存在するものの、机上で議論していることと現場の実情はかなり違うため、業務フローは現実のものに落とし込んで整理した方が良いという結論に辿り着きました。調査や検証に時間をかけるのではなく、素早く実行し検証するための組織体制を確立していくための手段として、高速PDCAを回していくことが重要になってきます。三つ目は、新たに生まれた事業やサービスは一定の割合で必ず失敗するが、誰も失敗したくないのでそれを恐れるようになってしまうことです。これを改善していくためには、成功・失敗を判断する基準を明確にし、チェックポイントを短期間で設けて中止/継続/ピボットの判断をシビアに行っていく必要があります。また失敗をそのままにしておくのではなく徹底的に研究することで、次に活かすべき学習ポイントを明確にしていくことも必要になるでしょう。最後の四つ目は、事業やサービスを始めてから時間がたつと環境が変化し、当初目的や当初課題が通用しなくなることです。サービスや事業を転換していくためには、実際に失敗を経験したメンバーが重要になってくる。他の事業やサービスで失敗を経験し、新たな学びを得た社員を新規事業にアサインすることで、その事業やサービスを良い方向へと転換していくことができます。

 

<講演を踏まえた感想>

今回は三越伊勢丹様のDX戦略についてのご講演ということで、就職活動を行っている途中の私にとっては、「DX戦略」はかなりよく耳にする言葉であったため、大変参考にさせて頂きながら理解を深めていくことができました。様々な企業が取り組んでいるDX戦略の中でも三越伊勢丹様は、単にフレームに沿った戦略を実行するのではなく、従来の顧客の方のニーズと自社の持つ強みを掛け合わせ、本質的な軸を逸らすことなく新規事業に挑戦されたことが成功に繋がったのではないかと、僭越ながら感じる部分がありました。また成功に至るまでの課題や困難にぶつかった事例を聞くことができる機会は滅多にないため、自分にとっては大変貴重な時間になったように思います。デジタルマーケティングチームとして、今回の講演で学んだことを今後の研究に活かしていきたいと考えます。講演参加に至り講演者の北川様、また運営関係者の各様に感謝申し上げ、報告レポートと致します。

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