先日9月22日㈬、Next Retail Labの第41回フォーラムが開催されました。
本日はその速報レポートを掲載いたします。
「D2Cにおけるリアル店舗の重要性とニューノーマルな世界での店舗のあり方」
青山学院大学 経営学部 経営学科4年
金子 緋里
今回参加させていただいたのは、株式会社フラクタ代表取締役 河野 貴伸様のご講演である。
株式会社フラクタは、デジタルネイティブなブランドエージェンシーとして“人の心に届くブランディング”を行うことで様々な企業のブランドビジネスを成功に導いている。新型コロナウイルスの影響でEC(Electronic Commerce)の利便性はますます高まる中、注目されるD2C(Direct to Consumer)において、今後企業が取っていくべき施策についてお話しいただいた。
D2Cとは、「顧客とともにブランドの成長を共創しようという動き」を指している。自社のECサイトを持っていない場合でも、Amazon・楽天などでの販売やお客様が他の人に対してブランドを広めることなどがD2Cということができる。D2Cの先駆者であるアメリカの企業、ワービーパーカーでは2020年にECサイト利用者がリアル店舗利用者を上回るという現実の一方で、今後の施策としてはリアル店舗の拡大を掲げている。「リアルが大切」という一方で、「生活者がECの便利さを知った」ニューノーマル時代に向けて、講演の中ではオンラインとオフラインの中間にあるMixed Fratについて語られた。
オンラインに必要なのはリアルな商品情報やサービスであり、オフラインに必要なのは、購入時の利便性や質の高い接客である。EC利用が普及した今、生活者はオンライン・オフラインの境界を意識しているわけではないため、それぞれの役割を融解してMixed Fratを前提としたブランド体験・シンボリック・エクスペリエンスが今後のポイントになっている。「ECがありき・店舗がありき」という発想がD2Cにはなく、それが今後も強みになるのである。
従来のOMOでは、顧客とのコミュニケーションが難しかった。店頭でのアプリの登録やログイン作業に顧客が手間取ったり、企業が収集したデータを顧客にすぐに還元しづらかったりということが表している。これを解決するために、オンラインとオフラインの間に「ニュートラルゾーン」を提供できるかどうかが大きな鍵になる。「店頭で商品を見て、購入はオンラインで」「店舗でQRコードを読み取り、商品情報はオンラインで」のように、顧客が魅力を感じるような購買体験を提供することが必要である。ニュートラルゾーンの実装例としては、チューズベース・シブヤ、マルイのConcept shopsなどがあるが、これらはまだ先進的なものとして捉えられている。従来のやり方を180度変えるのは難しいが、その可能性のsandboxとしてニュートラルゾーンを活用し、様々な企業がチャレンジを行うことで、日本のD2Cが確立していくと考えられる。
講演では、オフライン・フィジカルアベイラビリティとセレンディピティについてのお話も登場した。日本は鉄道網が発達しており、体験したいこと・モノにアクセスしやすいことからオフライン・フィジカルアベイラビリティが比較的小さく済むことが多い。それが大きい場合も、オフライン・フィジカルアベイラビリティを超える情報をオンラインで提供し、期待値を高めることで顧客獲得に繋がる。オンラインでは目的地にダイレクトに繋がるためにセレンディピティを生み出しづらい。したがって、情報のストックと長期的なインタラクティブ性が必要になる。ポップアップのようなオフラインでの刹那の瞬間は人々の思い出に残る可能性が高くなるのと同様に、オンラインでも季節性のある投稿やそのアーカイブなどによってセレンディピティに繋げられる可能性がある。
講演の中で一貫して語られたのは「顧客はオンライン・オフラインの境界を意識しない」ということである。そして、今後のD2Cにおいて企業が成長し続けるために必要なことは「コストを膨大にかけるのではなく、今やっていること・すぐにできることを実験的にチャレンジし、そこから高速にアップデートしていくこと」と結論付けられていた。様々な技術の進歩とともに多角的にデータを収集することが可能になった今こそ、お客様が本当に求める価値は何かを考え、それに対してブランドが提供できる価値をスピード感を持って生み出していくことが重要であることを改めて実感した。
講演後には、河野様とともに藤元様、高野様、石郷様、濱野様によるディスカッションが行われた。その中でも特に印象に残ったのは、オンライン・オフラインそれぞれの課題である。ECが普及した現在では、EC特有の恩恵はなくなったが、その一方でお客様もそれに対応しており、今までになかった可能性が広がっている。将来的にはオンラインもオフラインも全く同じように利用できなければ、不便だと感じられる世界になるのではないか、という話も聞かれた。
そこに向けて、オフラインのリアル店舗で求められることは「数字を見る必要性」である。売上や購入された数だけでなく、どれだけお客様が来店してどのような購買行動を取られたのか、常に仮説と検証を求める姿勢が必要である。一方でオンラインに求められることは、「一見すると無駄だと思えることにどれだけ労力を割けるか」である。お客様への細かい説明や繰り返し来店していただきコミュニケーションを取ることで生まれる購買行動もある。そのようなオンラインでは省略されてしまいがちな部分にどれだけアプローチできるかが今後の課題である。
新型コロナウイルスの影響でオンラインでの繋がりが増える中、リアル店舗における役割やニュートラルゾーンの意義について改めて考え直す機会になった。また、常に変わり続けるリテールビジネスの今後に期待感を抱くことにも繋がった。講演者の河野様、運営関係者の皆様に心から感謝申し上げ、報告レポートとする。